速記と文芸の関わり

 速記というのは、言葉を扱う技術ですから、文学などと非常に密接に関係してきました。

 速記が実用化されて間もない1880年代には、矢野文雄の歴史小説経国美談後編」や、三遊亭円朝の講談落語速記「怪談牡丹灯篭」などが速記によってかかれ、人気を博すとともに、速記を世に知らしめることになりました。

 「経国美談後編」の巻末で矢野は、「速記法のことを記す」と速記符号を紹介しました。これが、現存する日本最古の速記符号であり、そして、「速記」という言葉が最初に使われた例なのです。

 「怪談牡丹灯篭」他、落語の速記本が、文学や私たちの生活に与えた影響はとても大きいものです。 この落語速記本は、当然、口語で記されていました。 ですから、当時の言文一致運動に強い影響を与えたのです。 二葉亭四迷は、『浮雲』の文体を「円朝子の物まね」と自ら書いていますし、 山田美妙も「この文体は、円朝子の人情噺の速記に修飾を加えたもの」ともかいています。

 口語と文語が分かれていた明治期にあって、 口語をそのまま書き取る速記の影響力はとてつもなく大きいものでした。

 また、現代でも、多作でしられる松本清張が、福岡隆氏に口述速記を依頼していたのは有名な話です。 自身の小説の中にもたびたび速記を登場させています。 宮部みゆきは、速記者から小説家になった人として知られており、 短編で1作だけ速記者を描いています。 脚本家として現在活躍している秦建日子氏も早稲田大学邦文速記研究会で速記を学んだ一人です。

 このように、言葉を扱う速記は、文芸と深い関わりを持ってきました。 ワープロの進化などにより、口述速記の必要性は薄れてきましたが、 口語と文語が一致した立役者に速記があることをぜひ覚えておいてもらいたいなと思うのです。

 

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