- 作者: 中川淳一郎
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2009/04/17
- メディア: 新書
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はじめに
昔から、新しいものに対しては、その有用性には懐疑的な意見が多かった。○○なんて何も人生を変えない。一般的にならない。流行らない。
誠 Biz.ID:「7つの習慣」セルフ・スタディ・ブック 基礎編:「個人にコンピュータは不要」「テレビは半年で廃れる」――かつての偉大な人の言葉
かつての著名人が残した有名な言葉を紹介しましょう。今となってはばかばかしく聞こえるかもしれませんが、当時は最先端を行く考え方だったに違いありません。
「個人が自宅にコンピュータを持つ理由はない」 ケネス・オルネン(デジタル・エクイップメント社の創業者兼社長、1977年)
「テレビは半年もすれば市場から消える。毎晩、合板の箱を凝視することに、人はすぐ飽きるだろう」 ダリル・F・ザナック(20世紀フォックス映画社長、1946年)
「彼らのサウンドは好きになれない。ギターのグループは廃れつつある」 デッカ・レコーズ(ビートルズを拒んだレコード会社、1962年)
「この「電話」なるものには欠陥が多すぎて、コミュニケーションの手段として実用的ではない。この装置は本質的に無用の代物だ」 ウェスタン・ユニオンの社内メモ(1876年)
「地球は宇宙の中心だ」 プトレマイオス(天動説を唱えたエジプトの天文学者、紀元2世紀)
(中略)
ここで紹介した著名人の言葉は、当時のパラダイムに縛られた考えから導き出されたものです。当時の多くの人はケネス・オルネンの言葉を信じましたが、マイクロソフトのビル・ゲイツはそれを疑い、ご存じのように個人が使うPCを世の中に普及させました。新しいことにチャレンジするには、パラダイムを疑うことから始めることが必要です。
要約
『ネットはバカと暇人のもの 現場からのネット敗北宣言』を読んだ。
本書を要約すると、「はじめに」で引用したコンピュータ、テレビ、電話などで「これはダメだ」といわれたものが、実際は人々の生活を劇的に変えてしまったという例を引用したが、「ネット」に関してはこれと逆なことがおこっているというもの。
現在、ネットをメディアととらえた場合のパラダイムは、主に、「コンサルタント・研究者・ITジャーナリスト」などによって形成された、
- 「TVはネットに駆逐される。」
- 「ネットは、人々の生活を変える」
- 「ネットに人々が集まることによってよりよいものを生み出す」
- 「ネットによって注目されていなかったすごい人が注目される」
- 「ネットによってフェアな言論が生まれる。」
・・・ようするに、「「ネット」はすごい。」・・・というものだ。
しかし、運営当事者の目からネットの使われ方の実情をみてみると、『バカ』や『暇人』が他人の粗探しをしていたり、今日食べたものについて淡々とブログに書いていたりする。話題になるのは、TVの有名人やTVで紹介されたもの。パラダイム、理想論をもとに練られたネットプロモーションはことごとく失敗しているし、ネットで話題になっていることは、リアルでは全然知られていない。
しかし実情は、ネットはTVを駆逐し、集合知、クチコミによって新しい情報生成・伝達手段となる・・・こういった「コンサルタント・研究者・ITジャーナリスト」の展望とはあまりにもかけ離れたものだ。ネットはすごいというパラダイムからそろそろ脱却して、ネットの実情と性質にあった使い方をしようよ、というのが私の読み取った筆者の主張。
コメント
本書の主張に、ただ一つ、実感をもって、付け加えるとするならば、ネットは、本書でいうところの「バカと暇人」を生み出す機能も併せ持つという点だ。本書で、「ネットは人を賢くしない」といった主張があった。(炎上に対する理解をもった筆者の裁量でゆるめに書いたのであろうか。)私は、むしろ、ネットは、少なからず「バカと暇人」を生み出していると感じている。
たとえば、高校時代、勉強もほどほどにネットに打ち込んだ私は、本書でいわれるような『バカ』(もしくは普通の人)になった。学習指導要領にそった勉強を全くせず、ネット上のコミュニティーにどっぷりつかりくだらないやりとりばかりをしていた。その結果、ネットの理想的な使われ方においてペルソナとして設定されるような賢い人になれる道筋は、今のところ、まったくたっていない。ネットゲームに熱中して離れられない人、仕事中にネットサーフィンをする人、検索すればいいいやと人に質問するという行為ができなくなった人、そんな人の話を(TVやネット上で)よく聞く。・・・ネットは、バカと暇人を生み出す機能を持っている。時間を学習やトレーニングではなくネット上を放浪することによって浪費することによって、ネットをよく使う人は「バカ」になる。
ネットにどっぷりと漬かりながら、賢くなった人はいるだろう。たとえば、棋士の羽生さんは、「棋譜がネット上公開されることによって、将棋の上達が格段に早くなった」と主張している。しかし、ネットによって賢くなったのは、将棋がうまくなりたいとか、最初からネットに対して目的があった人だけである。ネットで盛り上がっているのは、やはり、mixiであり、モバゲーであり、ある程度時間がある暇人向けのサービスである。
ネットにどっぷりつかっている人が生まれていたことも、理想論に基づいたパラダイムが支持されてきた要因であったように思う。ネットは人を惹きつけてはなさない・・・と。
しかし、そのネットにどっぷり漬かっている人のマジョリティをよくよく観察してみると、本書でいうならば『バカか暇人』であり、理想的な使い方をしない人が多いことが分かる。ネットは、どっぷりつかる人を生み出す機能ももつことによって、理想論的な使い方がされることから遠ざかるという、矛盾に満ちたメディアではないだろうか。
だが、「ネットはバカと暇人のもの」「ネットは人を賢くしない」ということを理解したならば、ネットの使い道も見えてくるというもの。
自分は、ネット漬けな人間、かつ、どちらかというとネットサービスの運営当事者に近いので、本書の主張は自分にとって納得できるものであり、かつ、自分が漠然と抱いていたネットの先行きの不安を明確にしてくれるものであった。そして、その不安に思っていたことは、理想論にそったネットの発展に対するものであり、実情にあった使い方はあるよ、少しは、という筆者の主張に対して、安心感を覚えた。
「そうそう。TVの話題を補完したり、B級品・おもしろ品・とっても画期的な商品についてコミュニケーションをとったり、確実に便利な機能、路線情報など・・・そんな使い方なら、ネットもちゃんと機能するよね。」って。
ネットのあり方に、一石(ただし、「コピペできない紙媒体はネットにはさほど影響ナシ」という主張によって、自己矛盾をはらんだ一石ではあるが。)を投じる良書。
- 作者: 中川淳一郎
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最後に
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- 2009-05-31 初版公開
- 2018-05-07 追補