【第四回】スキャン時の解像度:300dpiか600dpiか。

 スキャンを始めると、まず最初に悩むことになるのが、画質だと思いますが、結論からいいますと、自炊のときの画質は、300dpi(後述)で十分でしょうということになります。

 ScanSnap、ImageFOMURA等、個人利用向けオートドキュメントフィード(ADF)機能付スキャナーでは、600dpiでのスキャンにも対応しています。しかし、この画質でのスキャンは、イラストなど極力データのロスを少なくしたい画像をスキャンするときにだけ用いれば十分です。さらにいえば、画質を重視するのであればフラットヘッド型のスキャナを用いたほうがよいでしょう。ADFを用いたスキャンでは、斜めにスキャンされたり、摩擦や紙の厚さの影響でローラーの回転方向に対して微妙に正確でない解像度でのスキャンが行われたりすることがよくおこります。画質を重視するからといって、斜めスキャンや縦横比の正確さをチェックしながらのスキャンは非常に効率がわるく、ADF機能の「素ばやさ」というよさを完全に殺してしまう作業となることでしょう。(そもそも個人利用向けのスキャナーでは、600dpiの画質でのスキャンを行うと速度が著しく低下する機種も多いです。)

そもそもdpiとは

 さて、「300dpi」十分だということを述べる前に、そもそも「dpi」とは?ということですが、ずばり、解像度(≒画質)を表す単位です。「dot per inch」の略で、日本語でいいますと「インチあたりのドット数」ということになります。「インチ」は、約2.54cmなので、300dpiですと約0.08mm×0.08mm、600dpiですと0.04mm×0.04mmをそれぞれ1ピクセルで表していることになります。

ディスプレイの解像度から300dpiの画質を考える

 具体的なイメージを持っていただけるよう一般的なコミックの寸法、約17.5cm×約11.5cm(=7インチ×)の紙をスキャンしたとします。画質の設定を300dpiにしますと、コミックの1ページが約2100ピクセル×1360ピクセルになります。フルハイビジョン(Full HD)と呼ばれる画質が、1920ピクセル×1080ピクセルですから、300dpiの設定でスキャンしたコミックは、Full HD対応のディスプレイで表示しても保存されているとおりの正確な画質ではないという画質ということになります。300dpiでだいたいフルハイビジョン画質ですから、600dpiの設定でスキャンした場合は、Full HD対応のディスプレイを縦横に4台並べてやっとスキャンしたとおりの画質で閲覧できますね、という感じです。

人間工学的な経験知から300dpiの画質を考える

 ちなみに、人間の目で識別できないほどのピクセル密度をうたうiPhone4の1ピクセルの大きさが0.074mmです。iPhone4を何度かみさせてもらいましたが、確かにピクセルを認識するのはほとんど困難でした。専門家ではありませんので、感覚知からいって、人間の識別能力というのは確かに0.07mm前後のところにありそうな気がします。300dpiの画像の1ピクセルが0.08mmですから、等倍で表示した場合、300dpi以上の画質の差は、人間の目ではほとんど認識できず、あとは、どれだけアナログな画質に近づけたいかという気分の問題と、拡大して利用する可能性があるかという問題になるのではないかと自分では感じています。

OCRの観点から300dpiを考える

 OCRで画像から文字を読み取る場合の正確さが気になる方も多いでしょう。この点についても「300dpi以上であれば問題ない」といえるかと思います。代表的なOCRソフトであるAdobe社の「Acrobat Pro」のサイトでは、「300 dpi でスキャンすると、変換に最適なテキストが生成されます。150 dpi では OCR の精度がわずかに低くなります。」と説明されています。*1各所でdpi別のOCRの検証が行われていますが、だいたい「300dpiもあれば、OCRに必要な情報は十分で、それ以上の画質にしてもそれほど精度に変化はない」という結論で一致しているようです。*2

印刷物の解像度と、データのロスの許容

 300dpiのスキャンで、「コミック画像がFull HD画質」、「人間の識別能力ぎりぎりの画質」、「OCR精度も十分」ときけば、300dpiで十分だと感じた方も多いのではないでしょうか。たしかに、ディスプレイの性能、人間工学的な経験知、OCRの精度等をもとにした観点では、300dpiも600dpiもさして変わらないといえるのではないでしょうか。

 しかし、一点、注意すべき点があります。それは「印刷物の画質」です。一般的な印刷物は350〜600dpi程度、写真ですと1000dpiを超える画質で印刷されているといいます。「元の画像のデータロスをできるだけ少なく」と考えた場合、一般的な印刷物なら600dpi、写真なら1000dpi程度は必要だということです。さらに、0.02mmのずれがあると、600dpiで印刷された印刷物の1ドットが2ピクセルにわたってしまうことも考えられますから、データのロスをできる限りすくなくと考えた場合、印刷物のdpiに対して2倍程度のdpiでのスキャンはしておきたいところです。1200dpiでのスキャンが可能なスキャナーと、1200dpiの画像を等倍で表示できるようなディスプレイをそなえたデバイスが個人利用できるようになるのは、まだまだ先のことになるかと思います。個人向けのデジカメの解像度の性能向上が停滞していること考えると、もしかしたら何十年とかかるかもしれません。ですから、電子化のメリットよりも「印刷の画質」のロスを気にするような方は、書籍の電子化はあきらめ、紙での所有を選択し、紙の経年劣化を押さえる工夫に投資をしたほうがよいかもしれませんね。

結論

結論としましては、「デバイスの解像度、人間の目の解像能、OCRに必要な解像度」これらの観点から、自炊の際のdpiは、300dpiで十分といえるかと思います。たしかに、300dpiのスキャンでは、印刷物と比べた際のロスがだいぶありますが、書籍の電子化のメリットを享受するためには、これらに目をつぶらなければいけないかもしれません。以上です。

印刷物からのデータロスの話題に絡み、書籍の電子化のメリット・デメリットについてお話しましたが、これについては、以前、詳しく書きましたので、こちらもご一緒にごらんいただければと思います。

【第二回】書籍の電子化をするメリット・デメリットを把握しよう - anybody’s game