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赤川次郎「死と乙女」

この物語は、ある一瞬を境にして、環境も時も同じなのに、まったく違った経験をすることになったふたりの、冬から夏のお話です。

 この小説は、主人公の判断を境に異なる物語が展開すします。別の物語を上段と下段で書き分けている書式です。インターネットの発達で生まれた「リレー小説」、少し前にはやった「テキストサイトの企画」や同人誌などを連想させる構成です。

 こういった形式の小説は、ストーリーが魅力的であればあるほど、3つ目、4つ目・・・のストーリーを思わず、想像してしまいますよね。3つ目、4つ目・・・を想像させるためには、それだけ魅力的な登場人物、しっかりとした背景描写が必要です。登場人物を頭中で動かしたくなければ想像できないし、登場人物を動かしたくても、その登場人物たちが動き回るフィールドがしっかりしたものでないと動かせない。

 その点、この小説は、読者に近い、どこにでもいるような親しみやすい主人公「江梨」、魅力的だけど浮世離れした「なつ子」、演劇、大人びた男性たちとの恋心がたぶんに混じった交流、人の死・・・登場人物と背景の、3つ目、4つ目・・・のストーリーを想像させるだけの魅力に詰まっています。

 インターネットが発達したことによって、リレー小説のような文化が生まれたり、同人の作品へのアクセスが近まった今、こういう分岐のあるストーリーを読んだり・書いたりする機会が増えています。「死と乙女」は、赤川次郎さんの、「読みやすい文体」によって、分岐のあるストーリーを読んだり、書いたりする時の、基本的な姿勢・・・

  • 分岐ごとの違いを楽しむ、
  • 分岐同士の同質性を探して楽しむ、
  • 分岐の異質性や同質性の根拠を探して楽しむ、
  • さらに3つ目、4つ目を想像することを楽しむ、
  • 読者にさらに分岐を想像させるような構成、

こういったものを再確認させてくれるでしょう。


死と乙女 (新潮文庫)

死と乙女 (新潮文庫)